ブリューゲルのイカルス

ブリューゲルへの旅
中野 孝次 / 文芸春秋




今年文春文庫で復刊されたこの本が日本から届いて、ブリューゲルを再び観に行った。

或る絵になにか惹かれるものがあると、「絵に会いにゆく」といった心境で美術館に通うようになる。私にとって道立三岸好太郎美術館がそういう場所だった。このベルギーで、王立美術館のブリューゲルに会いにゆくことも多くなりそうだ・・・

「イカルスの墜落」(中ごろにある。クリックで拡大。)という絵は不思議だ。
墜落したイカルスの足が海面からのぞいてはいるが、絵全体を占めているのは地平線まで広がる海や、労働する農夫たち。まるで、イカルスの出来事を無視しているかのようなユーモラスな感じさえ受ける。
この絵の思想が残酷だとしたら、それは時ハ過ギルという不可避の事実を負って生きねばならぬ、死すべき者人間の運命そのものの残酷さであろうと、考えないわけにはいかなかった。
と中野氏は書いている。

外は細かい雨が降っていて、吐く息が白かった。午後の遅い時間、誰もいないブリューゲルの部屋のこの絵の前で、そういう<運命の残酷さ>はしかし、さほどには胸に迫って来なかったのはなぜだろう。構図と色彩のすばらしさに眩惑されたのかもしれない。そして、ブリューゲルが描く人間のいきいきした存在感に気をとられていたのかもしれない。

王立美術館所蔵のほかのブリューゲルも、「幼児虐殺」のようにテーマが悲劇的であってさえまず圧倒されるのは、今にも声が聞こえてきそうな人物描写だったりする。
私のこんな印象も、数年経つうちには変化してゆくのだろうか・・・。
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by skyblue_2 | 2004-09-23 04:28 | デイリーライフ
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